攻撃を受けるウクライナの報道を見ている。心が悲嘆に沈む。
パブロ・カザルスの「鳥の歌」を聴きたくなった。CDをかけた。
カザルスはかつてのチェロの名演奏家だった。
カザルスはスペイン、バルセロナ近くのカタロニア出身だった。1939年、内戦によって独裁者フランコが勝利し、カザルスはフランス、ピレネー山脈のプラドーに逃げ、スペインからの亡命者の救済に全力を傾注した。カザルスは、スペインに民主主義政府ができるまではステージに立たない、フランコ独裁政権を承認している国では演奏会を開かないと決めていた。
そのカザルスが、1961年、アメリカのケネディ大統領の招きに応じ、ホワイトハウスで演奏会を行った。
その時のライブ録音が、「ホワイトハウスでのコンサート」だった。
カザルスは、ケネディの招きを受けて、次のような返信をした。
「人間性が、今ほど重大な状況に直面したことはかつてなかった。今や、世界の平和が、全人類の祈願となっている。すべての人が最終目標達成のためにベストをつくす、
義務がある。」
こうしてコンサートは行われた。
コンサート最後の曲は、カザルスの故郷、カタロニアの民謡「鳥の歌」だった。
カザルスはこう挨拶した。
「生まれ故郷の民謡を弾かせてもらいます。『鳥の歌』という曲です。カタロニアの小鳥たちは、青い空に飛び立つと、ピース、ピースと鳴くのです。」
チェロ演奏の途中に、ところどころで、うめくようなカザルスの声が入っていた。