ツバメ、巣立ちと飛翔訓練(3)


巣を飛び立ち、飛行訓練を始めてから3日目。


2日目の夜は子ツバメ4羽はねぐらに帰っていた。
3日目の朝、見上げると、巣からのぞく4羽の黒い頭、赤いのどが頭上にある。
成長した体には小さすぎる巣にきちんと並んではいても、
頭と胸は狭い巣から飛びだしている。
「おはよう」
ツバメさんにあいさつする。
人間の頭から巣までの距離は1メートルもない。
彼らは人を全く恐れる気配はなく、
むしろ安心を与えてくれる存在として信頼しているようで、
じっと上から見下ろしている。
犬のランにも警戒感はないようだ。
今日で子ツバメの訓練も終りかな。
たぶんそうなるだろう、
今日飛び立てば、巣にはもう帰らないだろう、
2日間も練習したのだから、
と、ぼくら人間は、そう決め付けていた。


朝の何時ごろから親は餌とりをするのか、
夜の間はどこで休んでいるのか、
我が子の識別はどうやってできるのだろう、
いろんなことが分からない。
5時台、親鳥が朝ごはんを運んできた。
親鳥の働きは、「献身的」と表現したいような働きだが、ツバメにとっては当たり前の自然なこと、
献身的という表現とは無縁だ。
親が餌を運んできて与えるときだけ、一時にぎやかな鳴き声が飛び交い、
それを耳にするだけで、状況が分かった。


子ツバメは朝ごはんを食べ、しばらくしてから全員飛び去った。
昼ごろまで、雨が降っていた。
子どもたちは雨にも慣れて、餌をとりに飛び回っているのだろう。
ときどき群れて家の周りを飛び回っているのを見ると、
「あ、うちの子や」
いつのまにか彼らは、我が家の一員になっている。


朝飛び立ってから、巣はからっぽのまま、昼間が過ぎた。
もう行っちゃったな、
巣の下の糞受けのダンボールを片づけなくちゃ、
そう思っていた。
ところが雨も上がり、夕焼け雲が西の山々にかかって、
茜色に染まり始めたころ、
巣を見ると、
あれれ、子ツバメ4羽が、またも頭を並べて入っている。
こりゃ、夕方になると帰ってくる、
お前たちのねぐらなんか。


そこへ親が飛んできた。
ピイクチュ、ピイチュリ、子どもたちのにぎやかな催促。
晩ごはんを、まだねだっている。
朝ごはんをいただき、晩ごはんをもいただき、
そしてその間の昼間、遊びほうけた。
子どもたちにとっては遊びこそ練習。
人間も同じ、
子どもの遊びこそ、成長への学びと練習。
ツバメの親子、
至れり尽くせりです。