五日目、福島の親子は帰途につきました。まったく天候が不順で、快晴の日は一日もありませんでしたが、子どもたちは元気で、雨の止んだ時や小雨の時には、虫取りや川遊びに出ていって、すっかり森の子、川の子です。野性の環境に置かれた子どもは、野性を自分の中に取り戻します。野性の暮らしはすごいものです。三日間で子どもの原型がもどってきました。
キャンプ場に昆虫の本や、自然生活の本が置いてあります。その本に、食べられる小さな動物についての記事があり、それを読んだ子らが大人スタッフの知らない間に実際に試していました。
セミをつかまえて、フライパンで焼いて食べる。これを男の子らが実際にやったと言います。
「セミを食べたよ―。」
「えーっ? ほんとう?」
「肉みたいな味がした。」
「お腹も食べたの?」
「お腹も食べたよ。お腹はあまりおいしくなかった。」
「ほかに何か食べた?」
「沢ガニを食べたよ。フライパンで焼いたら、おいしかった。」
「へーっ。なんとまあ。」
この子らは五年生を兄貴にした6人で、林のなかでカブトムシとクワガタを20匹ほど獲りました。
彼らは昆虫採集の本に書いてあった、昆虫をおびきよせる作戦を実行したのです。三脚のうえにライトを置いて、その上に傘をかぶせて一晩おく。朝になってテントから走って見に行くと、カブトもクワガタも来ていたそうです。
午後、雨がやんだとき、滝の探検隊が、ハマ隊長につれられて第五の滝まで登りました。その間、ひとりで薪割りばかりしている男の子がいました。小学3年生です。太い木を立てて置き、斧を振りかざして、力いっぱい振り下ろします。うまくいくと、きれいにパカッと割れます。男の子はこの快感が好きになりました。
「テントの中で、寝袋に入って寝るのが、楽しかったあ。」
テントのシートの下は土、その土の感触を寝袋の下に感じながら寝る。その感触は何とも言えません。それも子どもの中の野性をよみがえらせます。雨が漏ったテントもあって、寝袋が濡れてしまったと言う子もいました。それもいい体験です。
、
「ドラム缶風呂がよかったあ。」
川の水を汲んでOじいちゃんが薪で沸かしてくれた湯です。森の木の香りをかぎながら、湯に浸ります。
二日目は、親子で一つのテントで寝ました。家族キャンプです。
三日目は、子どもたちだけでキャンプしました。親たちは車で5分ほど離れた地球宿で、親たちだけの癒しの一夜です。子どもたちの中に幼児もいました。お母さんが心配して、
「ママも一緒に泊まったほうがいい?」
と聞くと、
「どうして?」
今日は子どもだけのキャンプだよ。ぼくは子どもらで一緒に泊まるよ、そんな心配いらないよとばかり。親にべったりだった子が、子どもらの力で自立を始めたのです。これにはお母さん、びっくりしました。
子どもたちが自然の中で自由な時間をもって暮らす。そうすると、何をしようか、何がしたいか、自分の頭で考え、自分の頭が働き始めます。そうして精神が自立していくのです。
現代社会は、自から育っていこうとする自然の力を子どもたちの生活の中から奪ってしまっています。
最後の日、出発ミーティングで、そのお母さんが言いました。
「子どもがキャンプから帰ってきたので、リュックザックを開けたら。アリさんがわーっと出てきました。ワイルドなキャンプだったんだと思いました。この子の変化は大きな希望です。」