戦争論 12

 

 吉本隆明の「私の戦争論」。

 アジア太平洋戦争回避の道はあったか。

 「回避の道はあったと思う。当時の日本国の責任者、政府首脳が、アジアに植民地を持っていた欧米諸国の首脳よりも、もっと高度な視点をもち、そうして事態に対処していれば回避できたんじゃないか。いくら経済封鎖されても、欧米諸国の首脳たちを凌駕するだけの、見方、考え方があったなら、つまり文明文化、軍事力、国家のありようをさらに一段高い世界史の視野から眺められるだけの見識と器量があったなら、戦争を回避できたんじゃないか。当時の日本の責任者、天皇も政治家も軍人もそういう観点を持てなかった。」

  そして「神国日本は負けない」と、一億火の玉となることを強いた。

 ではなぜ日本の指導者はそういう力を持てなかったのか。何がそれを妨げたのか。そういう見方のできる人がいたけれど、封殺されていたのか。

 我らは共通の祖先をもつ大和民族、祖先を同じくする民族で形成された日本国家、万世一系天皇の統治する神の国、その考えが強調され、ナショナリズムを高める。

 

日本人の祖先は同一であるかのような考えは奈良朝以後に形成されたもので、日本列島にはもっと前から人が住んでいた。黒潮に乗って、南から琉球弧づたいに海を渡ってきた人たち。朝鮮半島や中国大陸から、旱魃、災害、戦争などから脱出し、海を渡ってきた難民たち。

琉球人やアイヌ人とよく似た遺伝的要素を持っているのが南北アメリカの原住民であり、日本語とスリランカの言語に共通性があり、パプアニューギニアの言語と共通性がある、という。