あの遠き日々、矢田南中学の同僚、教育研究サークル「寺子屋」の仲間であった、障害児教育や学校演劇の脚本家で活躍した 森田博さん。
あのころ博さんは、学校にもってきたフィッシャーディースカウの独唱する「冬の旅」のレコードを職員室で、みんなに聞かせてくれて、
「私は家で毎晩これを聴いています」
と言った。このことは小説「夕映えのなかに」にも書いた。
ぼくが教職を退職した数年後、博さんの手紙が届いた。
彼の詩が書かれていた。
夏の岬
根室でジャンパーを買ったが
ハナミズが出る
水平線にむかってあるいていくと
よびもどせ 北方領土と
看板の赤い字が目にしみた
ロシアのお人形(カチューシャ)はいかが
売店のマイクにさそわれて
ぼくは ホタテ貝の刺身をたのみ
カップ酒を立ち飲みしながら
ゆっくり海を見る
クシャミをしながら 歯舞 色丹
望遠鏡をのぞいた
日本語のうまいロシア人に土産をすすめられ
ちいさな木彫の鳥を買った
足を引っ張ると
鳥は羽をバタバタさせて あえぐ