枯れた黒豆の株を、竹刀でパンパンたたいていた。
サヤから、黒豆がパラパラと出てくる。
今は亡き、木村重起さんが、旧制中学時代に使っていた竹刀。持ち手に巻かれた皮には、名前がまだはっきりと残っている。
21年前、奈良の御所市、金剛山の麓の名柄の村で、木村さんは、
「この家にあるものは、すべてあげます。自由に使ってください。」
そう言って、築80年のもう廃屋に近くなった家をただで貸してもらったのだった。
今日はいい天気だ。竹刀を使って、豆の株をたたくと、おもしろいように豆がはじけだす。
道路から、声が聞こえた。メイちゃんのおじさんと、おばさんが、立ち止まってこちらを見ておられる。
「いやあ、こんにちは。豆たたきしています。」
メイちゃんは、白のラブラドール。人懐こいメイは、しきりにこちらに来ようとリードを引っ張っている。かわいい。
おじさんが言った。
「矢口さんのリキが亡くなりましたよ。」
「えっ、リキ?」
「矢口さんのゴールデンのリキですよ、。」
「あーっ、リキが亡くなりました? そういえば、この頃姿を見ませんでした。」
犬は、十五、六歳前後で亡くなる。リキは、うちのランより若かったのに、逝ってしまったか。矢口さんの奥さん、おちこんでいるだろうな。矢口さんの前の犬が亡くなった時、奥さんは強いペットロスに憔悴しておられた。
道端の立ち話。犬の話から、肺ガンの入院の話、常念登山の話と移っていった。
叩いて実を落とした黒豆、ここからあとは、豆とサヤや枝葉とを分離して、豆だけを分離する。全部手作業。風の強い日に、サヤなどを飛ばす分離作業だ。