日本沈没 1

  

f:id:michimasa1937:20130407153815j:plain

 

 小松左京のSF小説「日本沈没」のなかに、こんな文章がある。

 地球物理学者、田所博士の弁。

 「日本など、こんな国なんか、わしはどうでもいいんだ。

 わしには地球がある。大洋と大気のなかから、もろもろの生物を何十億年にわたって産みだし、ついには人類を産みだし‥‥、自分の産みだし育んだそいつらに、地表をめちゃめちゃにされながら、なおそれ自体の運命、それ自体の歴史をきざんでゆく。

 この大きな、しかし宇宙のなかの砂粒より小さな星。

 大陸をつくり、海をたたえ、大気をまとい、水をいただき、

それ自体の中に、まだまだ人間の知らない秘密をたたえた、この地球。

  わしの心はこの地球を抱いているんだよ。

 この温かい、湿った、でこぼこの星を‥‥

あんなに冷たい真空の、放射線と虚無の暗黒に充ちた宇宙から、しめっぽい大気でやさしくその肌を守り、その肌の温みで、大地や緑の木々や、虫けらを長い間育ててきた、このなにかしらない優し気な星を‥‥

 太陽系の中で、ただ一つ、子どもをはらむことのできたこの星を‥‥

 地球はむごたらしいところがあるかもしれん。

 だが、そいつらにさからうことは、あまり意味がない。わしには地球があるのだ。」

 

  その前段に、こういう文章もあるのだ。東京風景。

 「アルミニュウムとガラスの、巨大な本を立てたような高層ビル群が建ち並び、ビルとビルの二十階あたりを、道路をまたいで白い通路が縦横につないでいる。ビルの十階あたりを貫いて、高速道路が走り、巨大な百人乗りのヘリバスが騒々しく飛び立っていった。

 この街は、上へ上へと延びる。地上を行く人は、しだいに日のささぬ谷間や地下に取り残され、じめじめした物陰で、何かが腐ってゆく。

 古いもの、取り残されたもの、押し流されてたまってゆくもの、捨てられたもの、落ち込んで二度と這い上がれないもの‥‥

 悪臭のガスを発散しながら、静かに崩壊過程をたどりつつあるものの上にはえる、青白い奇形のいのち、 

 この街は、いつまで変わり続けるのだろう?」

 

 そして、日本各地で巨大地震、火山の噴火が頻発する。