雷鳥計画は無理

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 中央アルプス木曽駒ヶ岳ライチョウを復活させようという環境省の計画が動いている。

 昔は木曽駒にもライチョウがいた。それがいなくなり、最近、北アルプス乗鞍岳から成鳥を移住させたり、卵を持っていったり、復活計画をいろいろやっていて、前回は、孵ったヒナがキツネかサルか、何かの外敵にやられてゼロになってしまった。

 資金をかけて、復活させようと、信大の中村名誉教授が奮闘しておられるが、ぼくは根本的に、無理だと思う。それはライチョウの生きる環境が、すでに崩れてしまっているからだ。

 稜線までサルやキツネ、テンなどが上がってくる。ライチョウにとって中央アルプスはもう永住の地ではない。地球温暖化が生物界にも影響を与えている。

 山の深さという点では中央アルプスは、木曽谷と伊那谷に挟まれた山脈で、山すその奥行きが浅い。そこに加えて山麓から植林の山が這い上がっている。木曽駒ヶ岳へはロープウェイが千畳敷カールまで上がって、そこにホテルが建っている。

 1970年代の初め、私は木曽駒から中央アルプスを単独で縦走した。途中の桧尾の頭というピークで夕方になった.ので、ビバークすることにした。ふと尾根の外れを見ると仮小屋のような小さな山小屋が見える。ぼろぼろの小屋だ。行ってみると学生アルバイトの若者が小屋番をしていた。素泊まりOKと言うから、土間と板の間しかない小屋に入って、寝袋で泊まることにした。他に客なし。二人は板の間に横になった。

 夜中に、体の上を何かが走ったので目が覚めた。懐中電灯で照らしてみるとネズミだ。三匹? 五匹? ネズミが走り回り、柱や板壁をよじのぼり、大運動会をしている。ザックの中の食料も狙われそうなので、枕元に引き寄せた。若者も起きて、ネズミ退治を始めた。週刊誌を丸めて、ポカーン、ポカーンと叩くが、いっこうに当たらない。とうとう途中であきらめて、寝ることにした。相変わらずネズミは走り回っていた。

 こんな稜線までネズミが上がってきて、繁殖している。ネズミがいるということは、テンやキツネもやってくるということだ。それでは、ライチョウが生きていくことは不可能だ、つくずくそう思った。

 それから50年近く経つ。

 ライチョウの生きることのできる環境がもう壊れている。

 壊れている環境をなんとかしないで、ライチョウを移住させたり、ヒナを放したりしても野生で育つことはないではないか。

 中央アルプスは無理、むしろ北アルプスに現存している成鳥たちを守ることだ。