カラス・モズ・セグロセキレイ

 雪の常念岳にまだ朝日が射していない。振り返ると日はまだ東山の陰を、姿を見せずにゆっくり昇ってきており、山際がオレンジ色になってきた。
 常念を眺めながら、その方向にまっすぐ伸びる道をランちゃんと行く。
 道路際の水路からセグロセキレイがぴょんと飛び出し、道に止まっている。近づくと独特の上下に波打つ飛び方で、少し前の方へ進んでまた水路のあたりに降りる。別の一羽がどこからか飛んできて、二羽一緒にまた飛び立ち、少し向こうにまた降りる。この二羽はつがいらしい。
 「虫のハンミョウみたいだな。」
 「道教え」という異名をもつハンミョウを思い出した。子どもの頃ハンミョウは身近な昆虫だった。紫や紅色が美しい。ぼくが歩いていくと、道の上にいたハンミョウは、飛び上がって数メートル先に行って道に降りる。近づいていくとまた飛び上がって前方に降りる。だから「道教え」という名がついた。もう今は、ハンミョウを見ることがない。
 数年前、セグロセキレイが我が家の納屋に巣を作って、ヒナをかえした。ここなら安心ということを知っているらしい。道路の上に見るセグロセキレイも、人間に親近感を持っているのかな。
 モズが庭に帰ってきた。庭仕事をしていると、すぐ近くの木の枝にいて、こちらを見ている。モズもこのじいさんに親近感を持っているのかな。
 夕方、たくさんのカラスがねぐらに帰っていく。この動きを観察していて、すっかり体が冷えた。
 カラスたちは北西の方から東南の方へ、飛んでいく。一羽一羽の距離はいくらか離れているが、大体同じ方向に向かう。カラスは群れで行動することが多いが、個体として自分は自分の考えで動くというのがはっきりしている。田んぼの中に数羽いて、ふと何を思うのか、単独で飛び立ち、違う方向に行ったりする。「私は私」、個人主義もはっきりある。
 近くの屋敷林のヒノキの大木の上に、いったん集まって、互いに鳴き交わし、何か情報を交換してからまたねぐらへ向かうようでもある。この時も、「オレは単独で行動する」というのがいっぱいいる。同じ方向に向かうにしても、単独で離れたところを飛んで横道にそれたりする。大きな動きは共通するが、どう行動するかは、自分の考えで決めている。そう思われるところが面白い。