停まった車の運転席からおっちゃんが、声をかけてきた。
「道祖神どこかね?」
「道祖神桜? それならこの道まっすぐいったら右にあるよ。見えてくる。」
三年前亡くなった写真家の中沢さんが元気な時に、道祖神を二体つくり、コヒガン桜を二本、あぜの道祖神の両側に植えた。桜は育ち、今満開の花が無言で何かを語っている。ここは常念岳をバックにした風景の名所になっている。
関西からの車、関東からの車がやってくる。車を見るとナンバープレートにぼくの目が行く。
先日、地区公民館でサロンを開いたとき、アキヒサさんに、
「圃場整備で新しい道路がつくられ、道祖神桜の写真を撮る所がなくなりましたね。」
と言ったら、
「下の田んぼ、うちの田んぼだで。入っていいよ、いくらでも入っていいよ。」
と、あっさり返事が返ってきた。それでこそアキヒサさんだと、大笑いした。
すぐ近くで、空き家を壊している。この地に引っ越してきた13年前から空き家だった家で、つくりもしっかりしていたから、その家の近所の人に、
「この家、借家になりませんかね。移住してきた若い大工さんが、家を探していましてね。家の持ち主に聞いてくれませんか。」
と、何人かに声をかけておいた。けれど返事は、
「持ち主が、施設に入っていて、話ができないんですよ。」
ということだった。
数日前、その前を通ったら、ガガーン、音がする。空き家がこわされている。重機が庭に入って、屋根瓦をはいで、建具をはずし、たちまち家は解体されていく。
その家の庭のスイセンが花盛りだった。このままじゃ、スイセンは踏みちゃちゃこにされてしまうぜよ。いかん、いかん。
急げ、スイセン救出。スコップを自転車に載せて作戦開始。夕方、解体工事の中断したときをねらって現場に行った。若い作業員が、作業を終えて庭で放尿していた。
「こんちはー。スイセン救出に来ました。もろていっていいですか。」
「わーおー、びっくりした。はっはっは、どうぞ、どうぞ、いいですよ。」
「ここ解体して、どうするんです?」
「二区画の宅地です。」
「はっはーん。売地ですかあ。」
「じゃあ、私はお先に帰ります。」
若い作業員はさっさと車で帰って行った。
椿の木の下の三十本ほどのスイセンを掘りあげ、自転車に載せて帰ってきた。すぐに我が家の庭に植えた。我が家の庭のスイセンは、いろんな種類があって200本はこえているかな。見れど飽きず。空き家から持ち帰った、スイセンは原種のような素朴な花だった。これでまたスイセンが増えた。