<安曇野市民ネットワーク設立>、「ブータンをモデルに」      


 「私はねえ、専門がドイツ文学なんですよ。政治、経済が専門ではないんですよ。」
そういう中野和朗さんの話は、言葉はやわらかく、内容は温かい。参加者から笑いもおこり、聴く耳に楽しかった。
 中野さんは、元松本大学学長で、今は「信州自由塾」名誉塾長でもある。26日、「安曇野を考える市民ネットワーク」設立集会に来てくれた中野さんは、基調講演で、「私は安曇野の応援団です」と言いながら、安曇野の良さを掘り起こし、安曇野の未来を展望して、一時間を超えるラブコールを送ってくれた。
 「安曇野ファンの私の、こうあってほしい青写真コンセプトはですね、」と話された要旨は、次のような内容だった。
「まず第一は、人災のない生活空間・環境をつくってほしい。弱者を自己責任論でばっさり切り捨てるのも人災です。原発事故のみではない。排気ガス、生活雑排水、産業廃棄物、交通事故、農薬汚染、競争原理による序列化、すべて人災です。第二は、人間は助け合い、分かち合い、自然と共に生きる動物であるという認識を基本にした、絆でつながるコミュニティを作ることです。第三は、環境・風土が日本人のアイデンティティを作っているという認識。豊かな水と緑、稲作は、日本人の心の故郷です。第四は、共同・共生の哲学。他人任せにせず、汗を流してみんなの知恵と力でつくっていく、市民主役の政治です。」
 中野氏は演壇を離れて、参加者の面前に来て熱弁を振るいはじめた。話はブータンに飛んだ。
「今世界で注目されているブータンは、九州ほどの大きさの、人口70万人の国です。標高300メートルから、7000メートルのヒマラヤまでの高低差があり、6割が農業を営んでいる。ブータンは、国民総幸福量(GNH)を国是としています。ブータン憲法9条『国の政策の原理』には、国民総幸福量を保障するのが政府の責任であると、明記されているのですよ。
 驚きますねえ。国民の96.7パーセントが、幸せだと答えているんですよ。国民総幸福量の基本は、1が自然環境の豊かさ、2が伝統文化の保全と振興、3が、優れた政治、4が、公正な経済発展。幸福をはかる項目もある。心理的幸福、健康、教育、文化、環境、コミュニティ、良い政治、生活水準、自分の時間の使い方、このそれぞれについて幸福度をはかる。国家ビジョンがまたすごいですよ。『自然環境や文化、伝統を破壊し、家族や友人、地域社会の絆を犠牲にするような経済成長は追求せず、人が安らかに暮らせる国をつくる。』と宣言しているのです。国民の幸せが目的で、経済成長は手段だと明言しているのです。首相がねえ、こう言ったのです。『幸せになるための手段と目的を混同して、人間を単なる消費者や数に変えてしまう、幸せにつながらない競争をなぜするのか。』日本への質問ですよ。」
 中野さんの話は、そこから安曇野プロジェクトに及んだ。
 安曇野には森があり田園があり、豊かな水が流れ、伝統的な家屋も多い。その風土に密着した「六次産業化」プロジェクトを創り出すことだ。安曇野全体を共同体としてとらえ、第一次産業、第二次、第三次、が共同して、生産・加工・販売を一体的に取り組むシステムをつくる。これは、「お上まかせ」「他人まかせ」ではできない。住民が主体となって取り組むことだ。なぜ「六次」かというと、「1×2×3=6」、だから「六次」である。自給自足システムや、経済の自立をめざし、都市化の津波から安曇野を守る、そうすることで固有の風土を活かした地域コミュニティが再生できる。この夢実現に向けて、やりませんか。
 この夢のエール、参加者の胸にどう響いただろう。中野さんの熱い想いを聞き流すわけにはいかない。この夢に向かう人がぞくぞくと生まれてくるように、今から始めることはそのための一歩だと思う。


 講演の後は、三人の報告があった。一つは「三郷ベジタブルの問題」、二つ目は「三郷北小倉の産廃施設の問題」、三つ目は「新庁舎建設にかかわる住民投票条例制定請求の問題」。
 そして参加者みんなでの自由討論。
「市民ネットワーク」が送った公開質問状にも答えず、拒否し無視する議員続出の実態も公開された。
「議員はサーバントであり、公僕である。市民のなかに入り、市民のために働く仕事であるのに、それをせず、こういう場にも出てこない。議員の質がよくないということは市民の質もよくないということにならないか。」と中野氏は軽いジャブ。
 参加者からは地下水汚染の問題、悪臭の問題、道路の問題など、自分の住んでいるところの自分の抱えている問題や不安、どうしたら解決するのか困っている実例も出された。
 芽生えたばかりの市民の会、これからみんなが知恵を集めて、みんなで創っていくことになる。ブータンをモデルに、寄り合い、学習し、研究し、情報を集め、情報を発信し、その活動によって市政を変え、住民の幸福に生きてくる新たな活動を始めていこう。
 会が終わったのは5時半だった。